レクチャーシリーズ

2016レクチャ―シリーズ〜第2回:佐々木睦朗氏「構造デザインの射程」 

2016年7月13日

レクチャーシリーズの第2回は、日本のみならず世界を代表する構造家である佐々木睦朗氏を迎え講演を行って頂いた。
佐々木氏は、木村俊彦構造設計事務所を経た後、佐々木睦朗構造計画研究所を設立、1999年から2004年まで母校の名古屋大学建築学専攻の教授を務め、2004年から法政大学の教授として教育及び研究分野においてもご尽力され昨年の2015年に退職されている。
講演はまず、上記の約50年間に渡る佐々木氏の個人史を年代ごとに分類され紹介された。
名古屋大学でシェル理論を研究した修学期、木村俊彦構造設計事務所での約10年間の実務設計を学んだ修行期、独立し個人で様々な建築設計に取り組んでいた揺籃期、事務所を法人化した時期である成長期には代表作でもある「せんだいメディアテーク」があり、その後の自身の構造デザインに対する考えや研究へとつながる記念すべきプロジェクトであったと述べられた。
そして2000年からの発展期には、大学での研究成果を活かした自由曲面によるシェル構造を、世界的に活躍されている建築家である、磯崎新や伊東豊雄、妹島和世等の尖鋭的な建築作品を「フラックス・ストラクチャー」と称して実現させ、難解である解析理論と設計・施工等のエピソードとともに話された。
成熟期を経た2010年以降の現在は円熟期であると冗談交じりに話され、70歳を超えた今も独自の「構造デザイン思想」によって構造設計を続けられているとの事であった。
では、今回のレクチャーのタイトルでもある「構造デザイン」とはなにか?と言った問いに対し、佐々木氏は「構造デザイン」を、構造(力学・美学)を本質論とし、技術的に具体化しいく構築(工学・技術)を実体論、それをさらにデザインの問題として展開する建築(空間・形態)を現象論の3つの概念で捉え定義している。 そしてその3つの概念を設計段階で常にフィードバックを繰り返し、思考の展開をされている。
また佐々木氏は、設計の鍵となる建築作品を建築構造の系譜として大きく骨組み構造と空間構造の2つに分けられ、骨組み構造の代表作を「パルテノン神殿」、空間構造の原型に「パンテオン」をあげられた。そして近代の骨組み構造の代表作には「香川県庁舎」、空間構造には「国立代々木競技場」をあげ、半世紀後の現代に自身の設計として辿りついた「せんだいメディアテーク」と「ラーニングセンター」等の「フラックス・ストラクチャー」を各々の系譜としてつながっているのではないかとの事であった。
最後に佐々木氏の50年間にわたる構造設計のテーマは「自由な構造の美学を求める」ことに尽きると述べられ、レクチャーを締め括られた。(多田脩二)


佐々木睦朗(ささき・むつろう)1946年愛知県生まれ。68年名古屋大学工学部建築学科卒業。70年同大学院工学研究科修士課程修了後、木村俊彦構造設計事務所に勤務。80年佐々木睦朗構造計画研究所設立。99-2004年名古屋大学大学院工学研究科建築学専攻教授。04-15年法政大学工学部建築学科教授。