レクチャーシリーズ
2016レクチャ―シリーズ〜第5回:松村秀一氏「ひらかれる建築―民主化の作法」
2016年11月16日
松村秀一氏は、東京大学で教鞭をとりつつ、建築構法研究の分野では第一人者であり、同時に、昨今のリノベーション・ブームにおいては早くから新しい可能性に着目して同時代的に、建築の構法という小さな範囲だけでなく、建築が果たし得る社会貢献についても早くから提言してきている。
今回のレクチャ―は、1ヶ月前に出版したばかりの著書「ひらかれる建築:「民主化」の作法」にて氏が思索した内容に沿ったものであり、まさに、建築の構法が、いかに社会との影響関係のなかで徐々に民主化され、そして、社会に対してひらかれるべく、新しい価値観がうまれつつあることを伝えてくれるものであった。
松村氏によれば、建築の民主化は過去において3世代に渡って行われてきたという。近代化の過程で生まれてきた第一世代。マスカスタマイゼーションの流れの中で、脱近代という時代と戦った第二世代。そして、生き方や住まい方など、関わる人々の主体性が重要になり、社会にさらに開かれ始める第三世代。今まさに、この第三世代が徐々に活発かしており、その視点において、建築が果たすべき役割はまだまだ多くあると言う。
氏の提示する考え方には、当時代的にあらわれる感受性に対して、ある種の裏付けを与えてくれており、今なぜ、我々はこういった建築のあり方やむしろ「関わり方」にたいする変化が必要なのか、その理由を提示してくれているように思う。建築のもつ専門性よりもむしろ、たとえばDIYや住民や街づくりに参加する人々の「非」専門家としての関わり方がよりクローズアップされてきており、そういう意味では建築設計者や建築施工者、あるいはメーカーといった専門領域に閉じた建築のありかたは徐々に崩され、建築設計者はよりファシリテーターとしての役割が必要になってきていることを実感した。(田島則行)
松村秀一(まつむらしゅういち)1957年兵庫県生まれ。80年東京大学工学部建築学科卒業。85年同大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了、工学博士。86年東京大学工学部建築学科専任講師。90年同大学院工学系研究科建築学専攻助教授。世界各地の大学で客員教授を務める。2006年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授。